徒然ラボ

幸田アダのブログです

ぜんぶ感傷のなかだ

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自分でも馬鹿らしいと思う失敗をした。

失敗というより失恋。らしきもの。

恋バナみたいな淡く儚いものでなく、愚かな男が幻と戯れて思い知らされるだけの惨めな話。空虚だけれど、肉が腐らないまま風に吹かれて渇いていく砂漠の国の映画みたいに曖昧な話にできたら素敵だと思う。

(執筆時間が長時間に渡ったため状況が変わり、追記部分で結論が変わっていたりする不条理な内容なので悪しからず)

 

僕は今時の若者なのでイマドキっぽくマッチングアプリに手を出して、普通にメッセージのやりとりなんかをして、デートの約束して、遊んでさよならみたいなことをしていた。

それはここ数ヶ月のことで、案外マッチングアプリでも普通に人と知り合えるし遊べるなと思った。たまにはデートすっぽかされたりしてさみしい思いをすることもあったけれど総じて言えば楽しいものだった。

全く知らない人を顔写真とちょっとした自己紹介を読むだけで好きとか嫌いして、たまたま好みが合うとおしゃべりが始まる。ネットの繋がりだから、街中で知り合うような現実感は皆無なのだけれど、たくさんの情報が省かれて、肉体の実在もないところで知り合って、「初めまして」なんていう世界は不思議と心地よかったし、好きになれた。

コミュニケーションの方法はチャットだけで、画面の文字だけで相手を知っていく。

同じチャットの中でも人それぞれの人となりがあって、初めからタメ口で書いてくる人もいれば、不思議と距離を感じさせないような丁寧な言葉遣いをする人もいた。文章の後ろにやたらwwwってつける人もいたなそういえば。その人のことは結構本気に好きになってきてデートに誘ったけど、彼氏がいるって断られちゃったな。そのあとも何気ないやりとりをして、たまに本気で相談なんかしてた。チャットのやりとりだけだったにせよ、明るくてシンプルで健やかな思考回路の素敵な人だった。言葉を交わしていくにつれて、どうしよもなく惹かれていった。ある時、その人から今の彼氏とは三年目だって聞いて、色々と話を聞いていくにつれて、その人の愛情の美しさが見えて、それは僕が欲しかったもので、誰かに捧げてみたかったもので、でもそれは僕じゃない素敵な誰かに向けられているものでっていうのを思い知らされるようで、辛くなって連絡をプッツリ断ってしまった。

「おはよう」とか「おやすみ」みたいな日常に溶け込んでしまう浸透圧のやりとりを含んでいたとしても、自分は文章だけで本気で好きになったり、親しみを感じてしまうようなナイーブな人間だとこの頃に知ったのだから、アプリではしゃぐのはやめにしておけばよかった。

はしゃぐだけならまだしも、加減ってもんを心得ていないので、惚れた腫れたの世界では僕はいつでも本気、文字通り命がけ。一生何かを背負う覚悟の本気っぷりなので非常にタチが悪い。指で好き嫌いをパパッと選り分けて、いつ断ち切れるかわからないバーチャルな舞台では少なくとも最悪の本気さ加減だ。

僕が本気にならない水際での水遊び、あるいは火遊びがあまりに簡単で新鮮で楽しかったもんで、いつの間にか忘れてしまっていた。

それは、先月のことで、ある年下の女の子とチャットを始めた。いつもと同じようにはじめましてのメッセージを送り、共通の趣味を探って、おんなじくらいの絵文字の塩梅でチャットを交わす。これはスポーツのようでもあって、相手方の人となりも様々だから面白い。いつ連絡を切られてもおかしくない状況だけにスリリングで、やりとりが重なるにつれて相手がどんな人かという情報が増え、解像度が高まっていく、気がする。

早起きな彼女とは少し生活リズムがずれていたから、夜になったらお休みなさいで一日のやりとりを終えた。次の日になって、目をさますと決まってメッセージが入っていた。おはようございますに続いて、今日は暑いだの、セミの抜け殻を見たのだの、バイトがどうのだの、なんてことない温く日常に溶けてしまうような言葉だった。

僕はそれで、気を抜いてしまったんだと思う。あの温度に、身構えてなんていられなくなった、取り繕わない心はつまりむき出しの素直で、本気だ。絶えることはなく、かと言って急かすこともない心地よさの中で、当然のごとく好きになった。

デートに誘った。結構真剣なやりとりがあって、お互いの重たさを少し見せ合った。交際経験のなさ、写真と実際は違うかもしれないということ、それでも会いたいということ、嬉しいということ。

デートいこうぜ、いいよ

という気軽さも好きだけれど、この場合は、この重たさが本物らしくて愛おしかった。

この辺で、僕の頭は完全におかしくなっていた。不特定多数をナンパするためのアプリは、彼女に繋がるためだけのアプリになっていた。あったこともない彼女に親しみを感じ、それを共有していると信じていた。危うい確信から滲み出た暖かい気持ちを抱いていた。今まで心のなかに器だけあって、満たされたことがない感情がじんわりと温かった。

この気持ちを大切にしたい。この関係を大切にしたい。彼女を大切にしたい。

本気で思いはじめた。

その日からの生活は明るかった。希望があると本当に活力が湧いてくるもんだなと思いながら笑っていた。

ある日、デートが彼女の怪我でキャンセルになった。

申し訳ないという旨が繰り返し綴られ、次は是非なんて文面だ。

いわゆるお断りメール。

もちろん辛かったけれど、女の子が知らない人と会う事実にふと危機感を感じるようになったとして、そして、怪我で行けなくなったなんて伝えたとして、それは仕方のないことだと思った。

とはいえ心にイタリア人を住まわせている僕にとって、女性のノーは三回までは挨拶みたいなもんなので、懲りずに連絡を送ってみると、あの温く淡いやりとりは再開された。

猛暑の中のギプスが暑い、松葉杖の移動スピードのせいで日焼けがひどいなんて言葉は今となってはウソか本当かわからないけれど、僕にとっては間違いなく、よりどころだった。僕がこの繋がりを大切にするように、彼女もそうしている気がした。僕が感じている親しみは、より確かっぽくなっていた。

途切れることはあったけれど、基本は順調だった。ぷっつり途切れたこともあったけれど、慣れない松葉杖生活で、スマホを落として故障させてしまったなんて言っていた。

もはや狂人の域の僕は、そんなドジまでを想像し、心配しつつも愛おしく思っていた。

 

連絡がおしまいになったのは今日のこと。

青天の霹靂。藪から棒。寝耳に水。は飛び込んで来なくなった。

 

本当にバカだった。実際のところ何にも知らない、実在するかさえ不明な文字の羅列に僕は恋をした。バカみたい。気持ち悪い。悲しい。

結局はAIのりんなちゃんとチャットでもやってりゃよかったんだよね。

これは失恋にさえなれない、失敗だ。僕が恋したのは幻だ。

曖昧なものに拒否されて、傷跡まで空虚だ。痛みだけは本物なのが憎い。

 

きもち悪い。彼女にブロックなんて方法を取らせてしまうほど、僕は必死になって延命をしようとしていたのかもしれない。骨折なんて嘘で、その嘘のつじつまを合わせようと彼女は苦心したのかもしれない。無理な気を使わせて、限界を感じさせてしまったのかもしれない。わからないけど。わからないけど、とにかく寂しくて、僕はこんな僕のことをきもち悪いと思うよ。

 

全部まやかしだ。恋なんて知らないよ。人は一人で、絶対なんてところにはいけないままだ。それでもきもち悪くなりあって、恋は美しいと言われるようなところになるんだろうけど、僕は透明な幻想を相手にきもち悪くなってそれで終わりだったよ。おわり。

 

 

【追記】

意味のわからない内容にさらに意味がわからない状況が重なって、簡単に言うと国家的組織に命を追われているという友人からの電話を受けて、メールを返したりしているうちに状況が変わった。

ブロックはされていなかった。

それっぽかっただけ。きもち悪い僕はネットでブロックされてるかチェックする方法を調べて試した結果、ブロックされてないことがわかって、歓喜しています。それもまたキモいのだけれど、嬉しいんだから仕方ない。

数日間連絡を放置されているのは事実だけど、きっと良くなるさ。

ブロックされていなければ、せめてさよならは言えるはず。最悪だって今よりマシなんだから、今は明日のために寝ること、それだけ。

だからおやすみなさい。